座れないバス
やっと座れた。
事故で止まっていたようで、20分も遅れたバスの前には、長蛇の列。
次のターミナル駅まで、立ちっぱなしだった。
老人、というと白髪交じりの70代後半の人という印象を受けるので、何歳かよく分からないが疲れた雰囲気を全身にまとった人々という表現にしておくが、バスの中はそういった人々で埋め尽くされている。
僕は目の前のいすに座った。
「座らせてくれんかね」
僕は前の駅から立ち続けたのだ。そう易々と席を譲るわけには行かない。
「お断りします。」
予想外の返答だったのか、座る気満々だった右足を引っ込めながら顔をゆがませる。
「あなた、このバス停で何分待っていたんですか」
「5分だ」
「私は7分後にバスを降りる。5分立って待ってたんだ、7分もそう変わらないだろう」
世代の連帯意識は結構だが、私は敵ではない。しかしそうもいかない。
「おい、君、そういう言い方はないだろう」
バスは狭いから、火の粉は飛び移る。
「では、どう言えば良いんだ」
「目上の人間に対する口の利き方じゃない」
「目上?どうして目上なの?」
「年が上なんだからに決まっているだろう」
「決まってなんかいないさ、年上が目上ってのは儒教の考え方だろう。あなたも私も儒教なら良かったが、あいにく私は仏教なんでね。仏教はみな平等です。」
「そもそも儒教なんてものは、目上とか目下とか身分にうるさくて封建制に適していたので日本に取り入れられただけで、今の時代に儒教的発想をするのは時代錯誤も甚だしい。お生まれは明治時代ですか。」
おばあさんが乗ってきた。
「あ、そこのおばあさん、こちらお座り下さい。」
バス停に着いたので、僕は降りた。