逆にこの時確かにそうなる。

逆に,このとき与式は確かに恒等式になる

大学院生の息子に聞いて良いことダメなこと:質問例文集

 大学院がどんなところか知らない場合,うっかり話しかけた内容で相手(大学院生)の気分を害することがある。大学院での生活がどんなであるかは,インターネットで少し調べれば分かるが,だからといってどういったことを聞くとムッとされるかは自明ではない。そこで,「分かっている」感じがする質問例を提示していく。この際,応用が利くように,前提となるコアな知識に分けることにする。

前提1:大学院の組織

 大学には,学部(がくぶ)があり,その下に学科(がっか)が置かれる。ときに変な大学だとその構成が特殊である。例えば東京大学では,新入生はほぼ全員が「文科一類」から「理科三類」の6つの科類に分けられる。筑波大学では「学部」の代わりに「学群」,「学科」の代わりに「学類」が置かれる。金沢大学は「学域」と「学類」としている。

 大学院とは,大学の学部の後に進学するところで,基本的に研究をするところである。従って,大きな教室でみんなで授業を受けるということは,ほとんどないと考えておいた方が良い。

 大学院には,研究科(けんきゅうか)という単位があり,その下に専攻(せんこう)が置かれる。例えば,「文学研究科・英文学専攻」といった所属名になる。この研究科と,学部には,何の関係もないと考えておいた方が良い(詳しく知りたい場合は「大学院重点化」で調べること)。また,例によって「研究科」「専攻」以外の名称を使っている大学がある。筑波大学東京工業大学九州大学などは注意しておく。

聞いてはいけない質問

Q.1-1「なに学部なに学科なの?」

 大学院に学部・学科は無い。

Q.1-2「この前ニュースで○○学部が出ていたぞ」

 大学は大きい。基本的に自分の所属している研究室以外との国交はないと推定しておいた方が良い。

Q.1-3「○○先生という先生がいるって聞いたけど」

 大学は大きい。例えば東京大学には正規の教授だけで1,200人以上いるのである。基本的に教授陣の名前すら知らないと考えておくべきである。

聞いて良い質問

Q.1-4「なに研究科なに専攻なの?」

 これは聞いて良いが,注意点がいくつかある。

  1. これを聞いたら話はそこで終わり。続けてはいけない。
  2. 聞き返してはいけない。
  3. 大学によっては聞き方に注意する。

 まず1.だが,研究科・専攻の名称というのは書類上のものであって,それによって本人が何をしているかを知ることはできないと考えておくべきである。例えば,文学研究科英文学専攻で英文学の研究をしている保証は全くない。していない可能性の方が高い。

 良い会話例:

 「なに研究科なに専攻だっけ?」

 「文学研究科英文学専攻だよ。」

 「文学研究科英文学専攻なのね,ありがとう。」

 次に2.だが,仮に聞き取れなかったとしても聞き返してはいけない。

 悪い会話例:

 「なに研究科なに専攻だっけ?」

 「総合文化研究科広域科学専攻だよ。」

 「そ,総合・・・総合文化? それは何? 何をするところなの?」

 「あ?! 何をするところだって? こっちが聞きたいわ!!」

 最後に3.だが,「研究科」を全く設置していない大学に通っている人に対して「研究科名」を聞くのは,「お前がどこの大学なのか知らないし興味もない」と言っているのに等しい。

 良い会話例:

 「なに学府なに専攻だっけ?」

 「地球社会統合科学府地球社会統合科学専攻だよ」

 「そうか,地球社会統合科学府地球社会統合科学専攻なんだな。」

 「(こいつ九大のこと分かってんな・・・)」

Q.1-5「正式な所属は何?」

 これはより良い質問である。とくに「正式な」と付け加えることで,返答が1つに絞られるのである。これを付けないと,「総合文化研究科なんて言っても分からないだろうな…」と思ってあれこれ婉曲して言おうかなどと負担をかけてしまうことになる。ちなみに「なぜそんなことを?」と聞かれたら「人に聞かれたときに答えられるように」あるいは「この前人に聞かれて答えられなかったから」と言っておけば良い。

前提2:大学院では,学位論文を書いて合格すれば修了となる

 大学院は5年間の学校である。そのうち,前半2年を「修士課程」後半3年を「博士後期課程」(はくしこうきかてい)に分けている大学院がほとんどである。いずれも,「修了」するのが目的である。修了するためには,修士課程では修士論文を,博士後期課程では博士論文を提出し,審査を受けて合格する必要がある。これらを総称して「学位論文」と呼ぶこともある。

 大学院では,最終的に学位論文を書くことになるのだが,それまでずっと研究をしている。研究成果がある程度まとまれば,その時点で論文を書いて投稿・出版する。これは「普通の論文」というものであり,学位論文とは異なる。とにかく論文は良いものをたくさん書いて出版できれば良いのである。何も出版できないとダメである。従って,大学院生は,常に,何らかの論文を書くつもりで研究していると思って良い。

聞いてはいけない質問

Q.2-1「あれ?この前も論文書いてなかった?」

 書いていた。それが仕事なのだから当たり前である。次の論文のための研究に着手したということである。

Q.2-2「今忙しいの?いつ頃暇になるの?」

 ならない。時間さえあれば1つでも多く論文を書くのである。修了すれば暇になることもあるかもしれない。

Q,2-3「研究は順調かね」

 うっせーな!!

Q.2-4「卒業」

 大学院に卒業という概念はない。「修了」である。卒業と修了は全く違う(本当は大して変わらない)。

聞いて良い質問

Q.2-5「学位論文の締切はいつ頃?」

 これは聞いて良いが,基本的に4月入学ならば秋以降にすべき質問である。また最終年度でなければ聞く意味が無い。在学期間が延長になっている場合は「学位論文は仮に今のところいつ頃出せたらよいなというつもりで進めようとしているのか」と聞く。

Q.2-6「忙しいのは知っているが,○○できる日はあるか」

 これは良い質問である。日程の調整は大学院で一番よく身につく技なのである。

Q.2-7「どのくらい論文を出せば修了できるのか」

 これは博士後期課程専用の質問である。大半の大学院では,出版済の論文の数が規定に達しないと博士論文を提出できない。そこでその基準を聞いておくと良いのである。あとは,名前でインターネット検索をして,本人が論文をいくつ出しているか数えれば,研究が順調かどうか分かる。

前提3:大学院生の日常はいつでも研究をしていると考えておけば良い

 大学院は研究をするところである。研究に終わりはない。「起きている時間は全て研究に使う」という考え方もあるし,「朝起きた時に,きょうも一日数学をやるぞと思ってるようでは,とてもものにならない。数学を考えながら,いつのまにか眠り,朝,目が覚めたときは既に数学の世界に入っていなければならない」*1という言葉も有名である。実際にこのようであるかどうかは問題ではない。

聞いてはいけない質問

Q.3-1「何の勉強をしているの?」

 これは2つの観点でダメな質問である。まず,大学院は第一義的に研究をするところなのに,そこをすっ飛ばして何の勉強をしているか聞いては順序がおかしい。料理人に対していきなりトイレ掃除の心構えを聞くようなものである。次に,大学院では,研究の必要に応じて色々と勉強をするので,何と言われても解答に困るのである。

Q.3-2「何の研究をしているの?」

 では研究について聞くのは良いかというと,ダメである。「学部では大学で一番,修士では日本で一番,博士では世界で一番その研究テーマについて詳しくなっている」という有名な表現がある。これはあながち間違いではない。言い方を変えると,そのテーマについて分かっている人は日本に一人しかいないということである。よって,聞いても分からないのである。では分かるようにかいつまんでほしいと思うかもしれないが,それこそ無意味である。「何か凄いことをやっている」レベルのことを答えられても満足できないだろう。要するにこの質問というのは,聞く方を聞かれた方も絶対に満足しない愚問なのである。

Q.3-3「授業はあるの?」

 ない。いや,実際にはあるのだが,ないと考えて良い。

Q.3-4「夏休みはいつ?」

 そんなものはない。

Q.3-5「冬休みはいつ?」

 そんなものはない。

Q.3-6「春休みはいつ?」

 そんなものはない。

Q.3-7「大学院は何時から何時までなの?」

 入学から修了まで24時間365日寝てる間すら研究のことを考えているとみなして良い(実際には考えていないこともあるが,それがいつなのか外からは分からない)。

Q.3-8「土日は休みなの?」

 大学院には曜日という概念がない。土日とか平日という概念は人間が勝手に作ったもので,学術とは関係がない。英語の文法は平日と休日では変わらないし,地球の自転も平日と休日では変わらない。同じように,大学院生の生活も平日と休日では変わらない。逆に,毎日が休みのような人もいるが,外から見ても分からない。

Q.3-9「何をしているの?」

 研究。

Q.3-a「研究というのは具体的に何をしているの?」

 色々考えたり実験をしたり論文を読んだりしているのである。それ以上詳しいことは素人が聞いても分からないどころか,玄人が聞いても分からない。本人すら分からないこともある。

聞いて良い質問

Q.3-b「研究は楽しいか」

 感情について聞くのは問題ない。

Q.3-c「きちんと寝ているのか」

 体調管理は重要だが軽視されやすいので,聞くのは良い注意喚起になる。だがそれ以上のことは言わない。「睡眠を取るべきだ」「食事をせよ」のようなことは言うべきではない。なぜなら,言われなくても分かっているからである。

前提4:大学院は大学・専門分野・研究室(指導教員)によってかなり様々である

 研究の世界はかなり細分化されており,研究室が異なれば文化も異なると考えて良い。従って,何かを一般化するのはほとんど不可能である。

聞いてはいけない質問

Q.4-1「○○もああいうことをしているの?(テレビなどを見ながら)」

 していない。「あそこの研究室は××系だから□□をやっているがうちは△△系なので□□はやらない」といった説明をするのは非常に面倒である。

Q.4-2「これって関係あるの?(何かの記事を示しながら)」

 関係ない。違う研究室の記事の内容があてはまることは無いと考えて良い。

聞いて良い質問

Q.4-3「研究室の規模はどのくらいなのか」

 教員・研究者の人数,学生の人数,留学生の割合などは聞いて良い。これは千差万別であり,院生同士でも聞くことは多い。

Q.4-4「キャンパスはどこなのか」

 意外にも研究室というのは点在しており,その大学のメインのキャンパスに通っていない場合がある。

Q.4-5「○○先生はすごいのか」

 指導教員の業績について聞くのは悪くない。その先生が良いと思って研究室を選んでいるのだから,基本的にはポジティブな反応があるはずである。基本的にはね・・・(くじ引きで配属されたり,アカハラパワハラの真っ最中だったり,入ってみたら超絶ブラックだったりすると良くないが,それ以上の問題があるので質問どころではない)。

Q.4-6「みんなどういうところに就職していくのか」

 これも千差万別なので,聞く分には問題ない。何かコネがあって毎年○○社には1人は必ず行くよね,みたいなこともある。

Q.4-7 指導スタイルについて

 研究室には「放置スタイル」「面倒見るスタイル」の2種類の指導スタイルと,「奴隷」の合わせて3種類がある。そのどれであるかは聞いて良い。

 良い会話例:

 「○○先生は結構面倒見てくれるの」

 「う~んウチは放任だからね,頼めば議論してもらえるけど,半年に1回くらいかな」

 「(これは修了が遠い・・・)」

 良い会話例:

 「○○先生は忙しいの?」

 「忙しいね,だから月に1回だけミーティングしてもらえる。」

 「それだけ?」

 「あでも助教の先生が普段相談に乗ってくれるから困ってはいない」

*1:筑波フォーラム45号