逆にこの時確かにそうなる。

逆に,このとき与式は確かに恒等式になる

長きにわたる歯科通院も一段落(いちだんらく)となった。

杉並区では,20歳,25歳,30歳,...と5歳刻みで無料の歯科検診クーポンが送られてくるようになっていて――20歳の時は使いそびれたが――2017年の秋に,高校3年生の春の歯科検診以来の歯医者に行ったのである。

歯医者選びは重要である。歯医者に限らず医院は口コミが全てである。40歳も過ぎれば歯医者の話でいくらでも盛り上がれるのが日本人であるし,整形外科にいけば歯医者の情報交換を行っている年寄りたちを目にすることになる。その結果,良くない歯医者は淘汰される。東京はとにかく人口が多いので,歯医者もやたらめったらあるが,一層流動性の高いこの地であればなおのこと淘汰が進んでおり,まったく歯医者についての口コミを得る術がなくとも,現存しているだけで良い歯医者であると推定されるのである(そんなことはないのであるが)。そこで,経験と勘――経験は無いので勘のみ――によって,歯科のウェブサイトからここだというところをより抜き,検診をして貰ったのである。

当初の反応はとても良かった。スクリーニングなので全ての歯は診ませんよと言われつつも,虫歯はありませんねと言われた。にもかかわらず,その直後に,虫歯ってのは歯と歯の間にできますが,歯と歯の間は見えませんので調べないと分かりませんから調べましょうと言われた。今まで受けてきた歯科検診はなんだったのか。

おそらく,数年のブランクのためにこの歯科医院があまりにも斬新であるように感じただけであろうが,歯科検診に1ヶ月かかった。1週目にレントゲンと写真撮影,2週目に解説,3週目にブラッシング指導,4週目にフロス指導であった。しめて1万円ちょっと。

結局,レントゲンを撮った結果虫歯が3箇所見つかり,親知らずも3本あるので抜いた方が良いと勧められた。この虫歯治療がとても高額で,セラミックが歯1本につき56,000円だという。いくらなんでもボッタクリではないか...?とも思い,医院を変えることも検討したが,それ以上の問題が発生した。

12月の忘年会(朝までカラオケ)のあと,爆睡して夕方頃に目を覚ますと,顎関節が痛い。ちょっと疲れるとこれである。そして,思いっきり口を開けて,閉じようとしたとき,顎関節が元の場所に戻らない。口は閉じるのだが,顎が完全に戻っていない。上の歯と下の歯がくっつかない。

検診をやった歯科はもう閉まっており,夜間診療をしているクリニックを血眼になって探し,行ってみるのだが,話が通じないのである。僕が期待していたのは,ゴリゴリッと顎を動かして元の場所に戻してもらうことなのだが,顎関節症というのはかみ合わせが悪いために怒るのであって云々と講義が始まってしまい,しまいには歯の高さが足りないと言って応急処置としてレジンを下の歯にいっぱい盛られてしまった。

レジンまみれの歯は,凹凸がないので歯としての機能を果たせないのだが,そのまま年末年始を過ごした。しばらくすると,顎の調子は良くなっていた。

年明け,元の歯医者に行くと,当然何事だとなる。事情を説明すると,虫歯の治療よりも先に顎関節症の治療しなければならないと言われた。理由は,歯の高さの調整をする必要があるので,先に削ってしまうと意味が無いとのことだった。

それからは,まず,歯型を取って,かみ合わせの調査である。結果として,ある歯の高さが足りないことが分かった。この歯の高さを増すために,マウスピースを装着する必要があった。なんでも,マウスピースを適当な高さで作ってやると,高さの足りない歯が勝手に伸びてくると言うのだ。前代未聞である。

それからは毎日寝るときはフロスをしてマウスピースを装着した。1ヶ月に1回のペースで様子を見た。すると,僕の勤勉さに医師も驚き呆れていたが(そんなことはない),高々3ヶ月で歯が伸びきってしまい,治療が終了した。

そして更に良いことに,これは以前の記事でも書いたが,毎日欠かさずフロスをしていたことによって,虫歯が埋まった。

顎関節症の治療のおかげで,虫歯も治り,結構な費用節約になった。これが2018年上半期の主な出来事である。

そして,下半期からは,親知らずの抜歯が中心のライフスタイルを送った。

下の歯は,ちょっとだけ頭が見えている形であり,レントゲンを撮ると横向きになっているので,日大病院へ紹介された。医師曰く,「私がやってもいいんだけど大学の先生の方が上手だから(笑)」だそうだ。

日々親知らずの抜歯ばかりを手がける口腔外科の先生は予約でいっぱいで,7月末にようやく診察してもらうと,「はい,じゃあ始めますね」と抜歯が始まってしまった。その夜は日本橋で飲み会だったので,「え?今から?」と驚き断ってしまった(この部分は「驚き呆れる」みたいな感じで一気に発音する)。

ちょうど日本大学歯学部付属歯科病院が新築となり,8月・9月は移転で全く稼働していないということで,10月中旬にもつれこんだ。

親知らずの抜歯に関する,インターネット上で流布する様々なあることないことを読み込み,歯を取るつもりで命でも取られるのかというつもりで病院に向かったのだが,麻酔を打つとて痛いということはなく,ただただ先生が歯学生に「これは4年生の時にちゃんとできるようになっとらんといかんはずだぞ」などと叱りながら歯学生へ反省を促す方がよほど怖かったくらいである。

手術は準備も含めて30分で終わり,出血も少なかったのでさっさと帰された。人生が一時停止するくらい痛いものなので痛み止めを絶やさず飲み続けようと思っていたが,痛いという字はどんな字だったか,やまいだれに……あ,そういえば抜歯跡が痛いんだった,と他のことにかこつけて思い出さねれば分からない程度であった。

こんどは,かかりつけの歯科医院で,上の歯の抜歯をした。こちらは,これまでハードディスクドライブとたった2ギビバイトのメモリを搭載したOSがマイクロソフトウィンドウズビスタのパソコンを使っていた人が,ソリッドステートドライブと16ギビバイトのメモリを搭載したOSがマイクロソフトウィンドウズ7のパソコンを使った時のように,何もかもが一瞬であった。麻酔をかけるのに5分,歯を抜くのに30秒であった。痛みはないし,歯を抜いた後も痛くない。痛み止めは2回分しか処方されなかったし,1回分余ってしまった。

年末に片方,年始に片方で,ようやく,顎関節症の治療,虫歯の治療(中止),抜歯の全てが終わった。今後は定期検診のみである。

この1年間で変わった習慣が3つ。

まずは,歯科衛生士の言うとおりに,これまで寝る前と朝食後に歯を磨いていたところ,寝る前と朝起きてすぐに歯を磨くようにした。

次に,デンタルフロスを毎晩使うようになった。慣れるとなんでもないし,歯磨きが楽しい。昔歯磨きは3分間やりましょうなどと言われ,何をどのようにすれば3分も費やせるのか謎であったが,今ではなぜ3分で歯磨きが終わるのかが謎である。

そして,水を飲むようになった。ぼくは水なんてものは味気ないので常用するものではないというスタンスを幼稚園入園以来ずっと貫いてきたのだが,日常的にジュースやお茶を飲むのを止め,水を飲むようにした。ついでに間食もやめた。

いま,歯の数は28本である。8020運動などと言わず,このままキープしていけそうである。現在の日本の経済状況を考えると,恐らく80歳の時点で歯の価値は相対的に高くなっており,実質40本くらいになっていると見込まれる。