みかわ是山居
仕事が長引いてしまった。焦りながら門前仲町へ。
予約の19:30、1分前に到着した。みかわ是山居。
3階の待合室に通される。事前情報通り、芸術品が部屋中にちりばめられている。
ロンドンから来たイギリス人夫婦が座っていた。1週間の東京旅行は5日目だそう。上野の美術館、表参道、皇居などを巡ったそう。日光は遠くて諦めたとか。日本語ができない上に、思ったより東京が広く、大変だったそうだ。雑談していると、席の準備ができて呼ばれた。
カウンターは10席。目の前(ちょっと右の方だったけど)には有名な早乙女氏。
メニューは無い。コースのみだ。先付けをつまんでいると、天ぷらスタートである。会話はない。ハットの形をした換気扇がごうごうと音をたてるのを聞きながら、できたてをさっさと食べるのみである。
海老。
海老の頭。
きす。
すみいか。
ここで椀が出てくる。
うに大葉巻。
ぎんなん。
白子。
めごち。
穴子。
野菜(アスパラ、椎茸、なす、さつまいも、ししとうから2つ選ぶ)。
最後は、天丼か天茶。貝柱のかき揚げである。
同時に漬け物と、赤出し。
デザートに、豆。
圧倒された。
分からなかった。
間違いなく旨い。レベルも高い。だが、僕には高尚すぎて、分からなかった。分かるようになりたいと思った。
ここまで来ると、どのような料理でもそうだが、人格を賭けた戦いである。作る方は当然だが、食べる方も必死である。場数を踏んで、鍛え上げられた人々が同じカウンターで食事をしている。僕はその領域にはないことがよく分かった。
親方の早乙女氏は、アーティストを自称しておられる。妙に納得がいった。高名な芸術作品は、誰が触れても確かにすごいのだが、受け手にもそれ相応のものを要求する。
しかし芸術というのは、段階を踏むものではない。一流に触れ続けてこそである。そういう観点から、今晩は大変な勉強になった。
満足度は総じて高い。
量も多い。めごちが出てきたあたりが、食べるのが辛かった。油が回ったのだ。言うまでもないが、油の切れは抜群である。比較にならないが、「てんや」のかき揚げは、3分の1食べただけで吐きそうになるのが僕の体質だ。満腹になるとは思ってもみなかった。
コースは1人17000円(税抜き)。
サービス料は取っていないが、最高の天ぷらを出すことを最高のサービスだと捉えているお店である。店員の質は悪い。でも全く気にならない。
早乙女氏のサービス精神はすごい。揚げている間はタネの名前を言う以外一言も喋らないが、コースが終了すると、品書きに絵を描いてくれた。花押までついている。
さらに希望すると記念撮影まで喜んで応じてくれ、玄関で客を見送るのである。
穴子が香ばしくておいしかった。