逆にこの時確かにそうなる。

逆に,このとき与式は確かに恒等式になる

存在しないことを記述するときこそ,計算言語学・知識グラフ・セマンティックウェブなどの知見を統合すべきか

本稿は,以下の2稿を踏まえている。

nipo.hateblo.jp

nipo.hateblo.jp

1つ目は,しなかったことについて書いたものである。2つ目は,想像の世界を理解不可能なところまで拡張しようという試みである。

いずれも,存在しないことを記述する試みだが,前者はありふれたフィクションで想像可能であり,後者は理解不能なフィクションである。

さて,理解不能な世界について,意味のある文章を書くにはどうするか。単に文字をランダムに並べるだけでは文章とはいえない。そこで,一旦表象の言語から離れて,背後にある事実に注目する。

例えば,「ドラえもんのび太にタイムマシンを貸し,のび太がそれを使う」という事実である。これを「ドラえもんのび太にタイムマシンを貸し,のび太がそれを使う」と書いても,「ドラえもんが貸したタイムマシンをのび太が使う」と書いても,"A time-machine Doraemon lends him is used by Nobita."と書いてもこの際どうでも良い。

これを図にするとこういう描き方ができる。もちろん,他の描き方でも良い。あるいは,XMLJSONでTripleにしても良い(RDF)。

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ここで鋭い読者はお気づきの通り,6個ある概念が,2種類に分かれているのである。すなわち,楕円で表現されている概念と,矢印で表現されている概念である。そして,行為主体である「ドラえもん」と「のび太」が同じ図形であるところ,対象物である「タイムマシン」まで楕円になっている点がびっくり仰天なのである。

これは,最後言語に変換することを想定して,名詞となりうるものを楕円に,動詞となりうるものを矢印にしたためである。そうしないと,「所有が使用貸借をドラえもんした」などという文ができてしまう。

さて,この図をさらに一般化して,スキーマにする。

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そして,存在しない概念を代入する。

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そしたら,最後に言語に変換するが,ここは一通りではない。例えば,「アッアーアアが軌しさに杜垂をごより,軌しさがそれを了扯する」と書いても,「アッアーアアがごよった杜垂を軌しさが了扯する」と書いても良いのである。今回は英語で書く場合は存在しない概念のための辞書が必要だ。

ここからが問題である。存在しない世界では,名詞や動詞がないかも知れない。あったとしても,矢印と楕円からなるスキーマが使えないかもしれない。

こうなるとメチャクチャの様相を帯びてくるように感じるかもしれないが,存在しない世界における事実は存在するので,これを記述しようとする限りではメチャクチャにはならない。例えば,アッアーアアがごよることはあっても,アッアーアアが了扯することはない(かもしれない)のだ。

従って,この存在しない世界の制約を用意すれば,なんとかして自動生成できそうである。

よく分からなくなってきた読者のために復習しておくと,これはフィクション(小説でも,映画でも,漫画でも良い)を作成するためにはどうすれば良いか,という話である。ただ,理解可能であるという,フィクションにおける行き詰まり(?)を打破したいのである。

今後誰かが作るかも知れない「アッアーアア」に関する物語では,アッアーアアが主人公(もちろん主人公という概念は存在しないのだが)ならば主人公らしく一貫性を帯びなければならないし,アッアーアアが物(もちろん物という概念は存在しないのだが)なら物として振る舞わねばならないのである。こうした一貫性を保つ以上,メチャクチャではないのである。極めて純粋な文学となるだろうが,誰も理解できないのである。

どんなに突拍子のない未来を想像できても,思想までは想像できないんじゃないか。

SFにせよ,超人的ななにかを主題とするものにせよ,マンガであれ小説であれ映画であれ,今現実には実在しないものや現象を想像して描かれる物語は少なくない。

近未来を想像して描かれた漫画などで,現代に至って予想が的中したものがあるとかないとか,そういう話題も時々出てくる。

予想を遙かに超えて現実が進歩しているということもある。突拍子がなさすぎて,実現に向けて世の中が進んでいるとは思えないものもある。

手からビームが出るとか,人間が簡単に空を飛べるとか,こういうのは余りにありふれているが,突拍子もないだろう。きっと最初は「神が手から光を出した」みたいな神話があったのだろうけど,それを書いた人は天才かもしれない。

僕はドラえもんで育ったので,ここから突拍子もなさそうなものを挙げてみると,「もしもボックス」はフィクションの中にフィクションを作り出してしまうのが意外だし,道路が方向自在の動く歩道になるベアリングロードも「そう来たか」と思ったし,「二十二世紀には台風なんか上陸する前に,消しちゃうんだ!!」というのも「いいなあ」と思った。

あまり意外な感じがしない場合は,何でも良いので意外な物や能力を想像してみて欲しい。

ここからが本題である。

どんなに突拍子もない発想で描かれた物や能力も,理解可能なのである。

「ダイコン」から2文字マイナスして「ラジ」をプラスすることでラジコンを生成する物体変換銃や,酒瓶が川を遡上し産卵できるようにする「コジツケール」がいかに想像を絶するものであったとしても,どういうものかは直ちに理解されるのである。

従って,想像して描かれた未来や架空の世界にしかないものを,誰もが直ちに理解できるのである。

未来や架空の世界においては,物や現象が現代の地球と異なるだけでなく,思想も異なるはずなのである。ところが,僕が見てきたかなり少ない数のフィクションにおいては,例えば政治体制にしても,民主主義か何らかの専制政治が行われるに過ぎなかった。もっと突拍子もない,訳の分からない政治体制があって然るべきである。

なぜこれができないかというと,単に思いつかないのもあるだろうが,思想は理解されないからだと思う。本当に訳の分からない思想を思いついて描いたら,受け手はついていけないはずである。食欲と性欲をひっくり返す(気楽に殺ろうよ)くらいが限界である。

例えば,物が先にあって,それを壊してなるべく細かくするのが良い社会とかはどうだろう。みんなテレビや冷蔵庫を仕入れてそれを壊して生計を立てている。そんな中で,世界で一番細かい粒子を求めて旅をするというストーリー・・・立ちはだかる様々な困難も,全て細かいほうが勝ちである。主人公より身長の高い敵はすでに負けである。ところが求めていた粒子を得るには自らも微小にならねばならないことが判明する!自らの身をシュレッダーに投じて細かくなり,人類最小となって崇め奉られるという感動の最後・・・・

う~ん,まだ理解可能なのでダメである。

 

理解可能性という点から捕らえ直してみると,「物」でも意味不明なものは作れなくないな。例えば,「アッアーアアをふいっとするクシャナンテ」は意味不明である。「アッアーアア」が何か分からないし,それを「ふいっとする」ことがどうすることなのかも分からないし,「クシャナンテ」も分からない。さっきのとくっつけてみよう。

この世界は,アッアーアアをグハッとするのが良い社会で,みんなアッアーアアをできる限りグハッとして生計を立てている。そんな中で,世界で一番グハッとしているピッポーを求めてアビャ~するというストーリー・・・立ちはだかる様々な困難も,グハッとして乗り越えていく。ところが,求めていたピッポーを得るにはノノンノンが極めてスラッとしていなければならなかった!そこで主人公はアッアーアアをふいっとするクシャナンテを手に入れ,ノノンノンをスラッとさせていく感動の最後・・・・

 

う~ん・・・

 

(ここで風呂を出た)

ACL2019

計算言語学の最大にして最高の国際会議,ACL(Annual Meeting of the Association for Computational Linguistics)に参加した。会場は,イタリア共和国トスカーナ州フィレンツェにあるバッソ要塞だった。

印象に残ったことを忘れないうちに記録しておく。

 

詐欺まがいの

あまりに海外に行く経験がないので羽田空港への行き方を脳内で20回くらいシミュレーションするくらいに入念な準備をする僕は,事前の調べでイタリアではスリが多いばかりか,観光客を嵌める犯罪まがいのことがいくつか横行していることを知った。例えば,握手を求められ応じると一瞬でミサンガを結ばれて金銭を要求されるだとか,ドゥオーモを眺めて歩いていると足元に絵が置かれて踏んでしまい金銭を要求されるとかである。

そのうちの一つに,駅で勝手に道案内をするといってついていくと,道案内料を取られるというものがあるのだが,これをやられてしまった。非常に悔しい。

ボローニャチェントラーレ駅について19番線に向かっていると,突然Excuse meと声をかけられ,どこに行くのか聞かれ,有無を言わせずこっちこっちと自分の前を歩かれてしまった。ホームに着いた後5ユーロ払えと言われ,1ユーロ硬貨を渡した。

どうすれば良かったのか一晩考えたが,やはり最初のExcuse meに応えるべきではなかった。

握手と踏み絵については避けることができた。

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入国審査100人抜き

ボローニャ空港につくと,ACL参加者のナイジェリア人と南ア人が見つかり,3人で話していた。入国審査の列のなぜか最後尾になってしまい,「なぜ我々が最後なのか」「順に並べば誰かが最後になる」などと会話していると,All PassportとEU/EEA/CHに分かれるところに来たのでまとめてAll Passportの方に行こうとしたら,なんとEU/EEA/CHの下に米国や日本の国旗が描いてある。「Are you a japppanese?」と聞かれ,一人EUの方に進んだ。

EU市民の方が多いのではないかと思われるくらいの行列で,全然進まないのでイライラしていた。飛行機が35分遅れており,フレッチャロッサの予約もあったので,早くボローニャ空港から駅まで移動したかったのだ。

最後尾に並んでいると,行列を整理している役人が「Jappanese? Come」と言って誘導してきたのでついていくと,EU/EEA/CHの列は途中で2つに分かれ,EU/EEA/CH市民と,ビザ免除各国民になっていた。後者が誰もおらず,僕だけであった。よって,さっさとゲートを通ることができ,入国審査は一瞬で終了した。

ボローニャ空港のAerobusの券売機を使うと,有料で周りを囲まれる場合があるという事前情報があったので警戒していたが,誰もいなかった。

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バンケット

国際会議には人脈作りのためのバンケットがある。

今回も一人でワインを飲んでいると,しばらくして声をかけられ一緒に話をしていたのだが,突然別の人から「日本人?」と声をかけられた。

バンケットフィレンツェの伝統的な何かを出し物としてやっていた地元の方のグループなのだが,日本人がいたのである。聞けば,フィレンツェに来て28年だそうだ。

その方は,当然イタリア語が話せるのだが,英語が話せない。僕は日本語と英語は分かるが,イタリア語は分からない。そして一緒に話している研究者は日本語もイタリア語も分からない。そのためコミュニケーションが成立しなくなり,程なくして研究者の人は時間が来て帰ってしまった。

僕はその日本人の方と,同じグループのイタリア人の方々としばし歓談した。といっても,イタリア語が分からないので,日本人の方に通訳してもらいながら,ではあったが。

興味深かったのは,ラ行の発音が日本語の発音ではなくなっていた点である。流音というのは移ろいやすいのかもしれない。

それから,英語を経由しないでイタリア語を習得されている方だったので,外来語をイタリア語読みされており,とても面白かった。例えば,バルセロナスペイン語)はバルチェロナ(イタリア語)であった。スイカを立方体に切った物を「スイカのクベット」と仰っていた(英語でいうところのcube)。

ご厚意で,滞在最終日に行きつけのピッツェリアに連れて行ってもらった。この時ほどイタリア語を勉強しておけばと思ったことはない。店員と楽しく会話をするのが普通らしいのだ。ほとんど何を言っているのか分からず,非常に惜しかった。

露店の革製品は本物か?

メルカート・チェントラーレ(中央市場)の外に露店がずらりと並んでいる。主に革製品を売っているのだが,にわかにベルトでも買うかと思い立って歩いて回ってみたものの,なんとなく怪しい(ボローニャの1ユーロ以降,誰も信じられなくなったので)。

そこで急いでGoogleで検索してみると,唯一このブログがヒットした。

ameblo.jp

こちらによれば,

  1. 値段は教えてもらえないが,値切るのが普通
  2. 偽物は中に紙が入っている
  3. 本物だと示すためにライターであぶり出すがどうなんだ

ということが分かった。

露店には大量のベルトが吊されているが,1本10ユーロ,2本15ユーロと看板が掲げてある。そこで店員に,「これは本物か?」と聞くと,えらい勢いで説明しだした。

ベルトをいくつか引っ張り出して,「これは本物だ。触ってみて。こっちが偽物。」といって,同じく吊されていた別のベルトを持ってきて,違いを強調した。偽物も売ってるんかい。

さらに,「これは本物だからMADE IN ITALYとバックルに書いてある。ほら。見て。裏にも印字がある。こっちは偽物だから無いでしょう?」と言って見せてくる。そして,「これは100%レザーだけど,偽物はこれ,見て」といって偽物の断面を見せてくれたが,中に紙が入っていた。

なるほど分かった,と言って,本物の方はいくらなのか聞くと,「it's secret」と言われた。なんじゃそりゃ。しかし上記のブログの通りに事が進んでいくのでそんなものかと思って,この際買ってみようと伝えると,中に連れて行かれた。

その場で採寸してカットしてくれるのである。値段を聞く前にカットされてたまるかと伝えると,気に入らなければ買わなくて良いと言う。周りを見渡してみると,中国語や韓国語,日本語で感想が書かれていた。観光客のものだろう。結局,1本26ユーロだた,2本で45ユーロということになった。そして,カットしてくれたときに断面を見せられて,「ほら全部レザー」と言われ,さらにライターで炙られた(ここまで全部上のブログの通り)。

カードは使えないという。現金で支払うと,お釣りは財布の中から出てきた。多分,税金を払っていないのだろう。カードだと足がつく。

高いのか安いのか分からないが,これもまた一興だということで。

東京イタリアン対イタリアン

東京のイタリアンは「東京イタリアン」と呼ばれるくらい確立された料理である。言い換えれば,日本人好みの味になっているということである。

イタリアに来たら本場のそれを味わってみたいものだが,いかんせんどんな地域であれ,うまい店とそうでもない店がある。そうでもない店によって評価することは避けたいが,どこがうまいのか分からない。trip advisorやGoogleのレビューは必ずしも役に立たないだろう(だって観光客が書いているから...)。

Trattoria I due G

日本語のメニューがあるトラットリア。周辺と比べて価格が異常に安い。ペンネ・アッラ・カッレッティエラを注文した。

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うまいけど,日本で食べてもこんなもんだろう。

Osteria Vecchio Cancello

料理名は忘れたが,なんとかラグだと思う。

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うまいけど,日本でも食えそう。

あとここは海鮮が良いという触れ込みだったのでマグロの何かを頼んだが,もっと良い調理法を日本の料理人は知っているなと思った(これはもう文化差でしかないので客観的優位はないだろう)。

Osteria Pastella

スパゲッティ・アイ・フルッティ・ディ・マーレ・コン・ポモドリーニ・コッツェ・ボンゴレ・カラマリ・エ・スカンピを注文した。

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これはうまい。スパゲッティが日本のと違う。海鮮の味も良く出ている。

ちなみにカプレーゼが非常に美味しかった。

あとこの店は他の店と比べて段違いにサービスが良かった。他の店が悪いだけなのだが(きっとこれがイタリアでは普通なのだろう)。

Ristorante Brandolino

ピチ・カチョ・エ・ペペを注文した。

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ひっくり返るくらい美味しかった。

テーブル会計

事前に調べていった情報によると,イタリアもテーブル会計ということだったのだが,行った店全てでテーブル会計は例外的な措置だった。みんな好きなときに席を立って店員に会計をしてもらっていた。僕がテーブル会計を要求してしまったので会計してくれたが,クレジット端末をこっちに持ってくる羽目になっていた(だいたい,アメリカと違ってPINなんだよな)。

まとめ

データをtrain,dev,testに分けるだけでは不十分で,ランダムに分けて複数回やらないと何とも言えないということが分かった。

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Gorman, K., & Bedrick, S. (2019). We need to talk about standard splits. In Proceedings of the 57th Annual Meeting of the Asosciation for Computational Linguistics, 2786–2791.

 

選挙特番を選挙前にやったところで何の意味も無い

「選挙特番を選挙後にやるな」などと言っている時点で政治に関心はなくどうでも良いと考えていることがよく分かる。そんな人間が選挙前に特番を見ることができたとしても,投票先の選択の役には立たない。

テレビだけでなく,インターネットに溢れている政策一致度を測るゴミアプリも同様なのだが,そこで取り上げている政策が関心を持ちようのないものばかりなのだ。

政治政策というのは結局行政府に何をさせるかということだが,行政府は何でもやる。安倍総理大臣がこの間「総理なので森羅万象すべて担当している」と発言して話題になったが,これは全くその通りなのである。従って,自分の興味のあるところから政治に近づくのが正しいのだ。

毎度毎度,選挙の度に憲法改正が争点であるかのような口ぶりで報道がされるが,もう完全にどうでも良い。何をどう変えるかという話が一切されていないのだから,検討の余地がない。2000万円問題も至極どうでも良い。だいたい,年金に関する問題は政治の問題というよりも人口構造の問題なのだから,誰がやっても似たような結果にしかならない。

政治家の仕事は憲法改正と年金だけであると言わんばかりの報道ぶりだった。こんなことでは,選挙前に特番を放映したところで,普段興味のない政治に関心など持てるわけがないだろう。

さて,政治は森羅万象を対象にするから,政治に興味がなくても,興味のあることから政治につなげることは難しくない。

例えば,スポーツが好きならばスポーツ庁という文科省の外局があり,そこでどんな政策をやっているのか見てみると面白いだろう。この点,関わっている政治家がどのようなことをしているのか調べることもできるし,面倒なら電話して聞けば良い。

あるいは例えば,JASRACが許せなくて仕方がないとしよう。著作権法文化庁の管轄である。著作権法は昨年改正されたが,どう変わったか知っているだろうか。法律が変わったということは,賛成した議員や反対した議員がいたはずである。どんな議論がなされたか調べる価値はある。

ほかにも例えば,ワインとチーズが大好きだとしよう。チーズには大変高額な関税が掛けられていたが,今年の2月に日欧EPAが発効し(チーズだけに),段階的にチーズの関税が下げられることになった。ワインに至っては,即座に関税ゼロになる協定である。この協定は,自民・公明・維新などが賛成し,立憲・国民・共産などが反対した

山ほどある政策課題を全て取り上げることはできない。しかし,個人の関心は多様である。このズレに問題があるのだ。ネットフリックスは見たい物だけ見れば良いという配信システムのメリットを存分に生かしている。我々も,興味のあることだけ調べれば良いのである。面倒に感じるかもしれないが,選挙特番を1時間かけて見る方が面倒である。1つの政策の経過を調べるのには15分くらいしかかからない。

ワインとチーズだけで投票先を決めてしまっていいのか,という声はないだろうが,当然である。自分にとって重要な課題で見極めるのが普通である。憲法のことを一生懸命考えて投票している人間のほうがよっぽどどうかしている。

おせっかいな人は,「選挙に行け!」とか「政治に興味を持て!」と叫ぶのではなく,「君の好きな○○は政治が絡んでいる!」と教えてあげるのが良いのではないか。

NHKから国民を守る党とれいわ新選組の政党交付金はいくらになるのか

政党交付金の算出方法を知らなかったので,調べた。N国党は1億4388万5613円,れいわは1億6171万9053円である。

根拠は,政党助成法(平成6年法律第5号,以下法という)である。

まず,政党交付金の総額は,直近の国勢調査による人口×250円である(法7条)。前回の国勢調査平成27年に行われており,人口は127,094,745人であるから,総額は317億7368万6250円である。実際には,これを基準として毎年の予算で決めることになっている。総務省の予算によれば,317億7368万7000円である(1000円未満は切り上げになっているのだろう)。

次に,議員数に応じて金額が決まる議員数割と,得票数に応じて金額が決まる得票数割があり,半分ずつ金額が割り当てられる(法7条2)。つまり,それぞれ158億8684万3500円である。

続いて,議員数割は,衆議院議員参議院議員の数を合わせて,割合を計算する。無所属の人数は分母に入れない(そりゃそうである)。得票数割は,衆議院参議院でまず半分に分ける。その後,衆議院小選挙区比例代表で半分ずつに分ける。参議院も,選挙区と比例代表で半分ずつに分けるが,参議院は選挙が2回あるので2回の平均を取る。

衆議院は直近の選挙,参議院は直近2回の選挙によって割合が決まる。そのため,政党交付金は総選挙か参議院通常選挙がある度に計算し直す。そして,年に4回(4月,7月,10月,12月)交付があり,直近の計算に基づいて支払われる。次回の交付は10月20日である。

では,NHKから国民を守る党と,れいわ新選組政党交付金を計算してみる。

NHKから国民を守る党政党交付金

議員数割=158億8684万3500×{衆議院議員数+参議院議員数}÷{衆議院議員総数(自民285+立憲55+国民39+公明29+維新11)+参議院議員総数(自民113+立憲32+公明28+国民21+維新16+れいわ2+社民1+N国1)}=158億8684万3500×(0+1)÷(633)=2509万7699 [円]

得票数割=158億8684万3500×0.125×{2×(前回の衆議院選挙小選挙区の得票率)+2×(前回の衆議院選挙比例代表の得票率)+(前回の参議院議員選挙選挙区の得票率)+(前回の参議院議員選挙比例代表の得票率)+(今回の参議院議員選挙選挙区の得票率)+(今回の参議院議員選挙比例代表の得票率)}=158億8684万3500×0.125×(0+0+0+0+3.7800%+2.2017%)=1億1878万7914 [円]

合わせて,1億4388万5613円である。

計算の上で注意しないといけないのは,

  1. 政党は国会の会派とは異なる点(議長副議長は会派を離脱するが,政党は離党しない;無所属議員も会派には入る場合がある)
  2. 政党同士で分け合うので,政党に属していない人の得票は計算に入れない点(共産党交付金を受け取らないので,母数に入れてはいけない)

れいわ新選組政党交付金

議員数割=5019万5398 [円]

得票数割=158億8684万3500×0.125×(0+0+0+0+0.5328%+5.0831%)=1億1152万3655 [円]

合わせて,1億6171万9053円である。

注意点

無所属議員は,分母には入れないが,今回は野党共闘で無所属議員が多くいたために,相対的にN国党やれいわの割合が高くなった。今後,無所属議員が政党に入党すれば,金額は低下する。

データ

  選挙区 (割合) 比例区 (割合)
自民 20,030,280 49.77% 17,711,862 39.47%
公明 3,913,359 9.72% 6,536,336 14.57%
立憲 7,455,083 18.52% 7,917,719 17.65%
国民 3,256,859 8.09% 3,481,053 7.76%
維新 3,664,530 9.10% 4,907,844 10.94%
れいわ 214,438 0.53% 2,280,764 5.08%
社民 191,800 0.48% 1,046,011 2.33%
N国 1,521,344 3.78% 987,885 2.20%
合計 40,247,693 100.00% 448,694,74 100.00%

(7月23日現在・数値は朝日新聞掲載のものを集計・算出(とても大変))

 

大学院・研究室をどうやって決めたか(自然言語処理編?)

僕は学部と大学院で違う研究室に所属しているが,どのようにして研究室を選んだか,覚えている内に書く。

この手の記事はインターネットにたくさんあるが,専門によっても慣習が異なる研究の世界では,いくらあっても困らないだろう。

僕の分野は,知能情報学である。以下,学部4年の春に行ったことを述べていく。

研究室をリストアップ

言うまでもないが,自分のやりたい分野と完全に一致する研究室を選択すべきである。そして,これは僕なりの作戦だったのだが,自分のやりたいことができるかどうかは,どうでもよかった。もちろん何がやりたいかはっきりしないと話すときに困るので「やりたいこと」を用意はしていたが,それができなくても全く構わないという姿勢であった。

研究としてやる価値があるかどうかは,徹底的にサーベイをしないと分からない。学部で研究室に配属すらされていない自分には,何ら研究テーマを判断する力は無かったので,大学院に入ってから決めようと思ったのである。

大学を変えるという人もいると思うが,僕は資金的な面から東京大学にこだわる必要があったので,東大で自然言語処理ができる研究室をリストアップした。これが面白くて,宇宙工学の専攻にも研究室があったりしたものだから,大学院は専攻名で決めてはいけないという教訓を得たのだった。

研究室の探し方は,大学ドメイン名+分野のキーワード検索はもちろん,言語処理学会の役員一覧を見たり,和文誌や国際学会のラストオーサーの名前を探したりした。

研究室の絞り込み

リストアップしたら,研究室を絞り込んでいく。観点は4つだった。

お金があるかどうか

これは研究を遂行するにあたって,非常に重要である。研究室にお金があれば,パソコンを買ってもらえるだろうし,RAとして雇ってもらえるかもしれない。また,コーパスなどのデータが揃っているかどうかも重要である(これは直接聞けば良い)。

お金があるかどうか,調べるのは簡単だ。

まず,科学研究費補助金のデータベースで教員の名前を検索する。次に,以下の観点から十分な資金があるか判断する。

  1. 過去数年間にわたって,科研費を取り続けているかどうか(期間が途切れていないかどうか)
  2. それが研究代表者かどうか。分担者がいる場合,金額を単純に人数で割ってみていくらぐらいか

科研費で学生をRAとして雇うことができる。一人あたり年いくらまで出せるか見積もると良い。

なお,研究費は科研費だけではない。日本学術振興会のほか,科学技術振興機構もお金を出している。その他民間の財団や企業による支援もあるが,調べる余裕はなかった。

学生が学振を取っているかどうかも一つの観点である。研究室のウェブページに書いてある場合もあるが,そうではない場合,日本学術振興会のウェブページを見れば良い。

学生が研究成果を出せているかどうか

次に,学生が,第一著者で,その分野で良いとされている媒体(情報学ならば,COREランクA以上の国際会議)に論文を書いているかどうかを確認した。トップ会議ばかりだと,「うちは良いところにしか出さない!」みたいな研究室の可能性もあるので,適宜2nd-tier・3rd-tierの論文もあった方が良い。また,放任スタイルの研究室だと,一部の学生だけやたら論文を書いていて,他の人が書いていないということもあるので,名簿と対照しながらチェックした。

他にも,論文のタイトルと著者の組合せから,一人一人好きなように研究テーマを決めている研究室なのか,何人かでまとまってやっている研究室なのか,など情報が得られる。進学するにあたっては業績を積むことが生存戦略になるから,一人の学生が複数のプロジェクトに首を突っ込んでいるかどうか気にしても良いだろう。

就職先が気になる場合も,調べておくと良い(ウェブページに書かれていない場合は,直接学生に聞けば良い)。

あと,教員が過去にトップ会議にファーストで論文を出しているかどうかもチェックした(トップ会議に通したことのある先生に指導して欲しいじゃん?)。この時に注意しないといけないのは,教員の研究分野は必ずしも昔と同じではないという点だ(昔は言語処理じゃなくて音声言語処理をやっていたという場合,ACLではなくICASSPを探すことになる)。

生活環境はどうか

僕は縛りのきつい研究室には行きたくなかったので,コアタイムが存在せず,ミーティング等の頻度が適切かどうか確認した。

これは,研究室見学に行って,実際に学生に尋ねた。具体的なことまでイメージすることが大切である。お昼ご飯はどうしているかという話も聞いたような気がする。

研究室のワイワイイベントがあるかないかも人によっては重要だろう。

博士までいけるかどうか

僕は博士課程に進む気満々だったので,学生が博士課程に行っているかどうか,きちんと進級できているかどうか重視した。普通,研究室のウェブページには,メンバーの名前が学年とともに載っているので,Web Archiveと照らし合わせながら,毎年全員が進級しているかどうかを確認した。更新がされていないウェブページもあるので,その場合は学生の個人名で検索して情報を集めた。

それから,教員の年齢も重要である。5年間在籍するならば,5年以内に定年を迎えるとまずい。博士号をいつ取ったのかは国立国会図書館で調べられる(ストレートなら27歳)し,researchmapに経歴が載っていればそこからある程度計算できる。なお,博士課程の頃と名字が違う場合があるが,出身大学・専攻が分かれば大学のレポジトリで検索して大方見当をつけることができる。

院試に受かる見込み

研究室を絞り込んだら,そこにいけるかどうかの見当をつける。

まずは,入試問題である。準備期間に相当の勉強をして,どのくらい点数が取れそうか,ボーダーが公開されていればそこに達しそうかどうか検討する。

次に,定員との兼ね合いを考える。どんなに高得点を取っても,定員が5人の研究室に100人が応募したら,非常に競争率が高い。逆に,試験で0点でも,志望者が5人の枠に1人しかいなかったら,合格するかもしれない。

研究室毎の定員は,募集要項に書かれていなくても調べれば見当がつく。専攻で人気の研究室のメンバー一覧を見て,修士1年と修士2年の人数が同じならば,それが定員である。また,研究室を見学した際に聞くこともできる。僕は,「少なくとも2n人が志望して,n人しかここに来ていない」と教えてもらったので,定員はn人だと断定した。そこの研究室を何人が受けそうかも調べた。大学院は,下部組織に学部があるので,そこの人間がどのくらい当該研究室に行こうとしているか調べれば良いのである。それは,配属されているB4の人数から調べたり,TwitterなどでB4の専門分野を調べたり,あるいは研究室が話題になっているか調べた(「○○研に行きたい」みたいなツイイトがあることもある;ただし,研究室名は隠語が使われる事も多いので,慣習をよく調べておく(主宰者の名前をローマ字にする場合(佐々木ならssk),講座名を略す場合(情報システム工学ならjsk),サブドメイン名の場合(www.abc.t.u-tokyo.ac.jpならabc)等々))。

そして,どうしたか

事前に散々調べた上で,研究室見学に行った。候補は4つあったが,1つ目で即決した。決め手は,研究室が東京都千代田区にあったことである(?!上に書いてあることと全然違うじゃん……)。

そして,院試は1つしか受けなかった。落ちていたらと思うと今でもぞっとする。

答えのない問いには答えがある

「答えのない問い」「答えのない世界」「答えのない課題」「答えのない人生」などといった表現がある。この「答えのない」「答えがない」という表現は「問題」である。

 

問題には4種類ある。

まず,答えがあることが分かっており,ただちに答えを手に入れることができる問題である。例えば,4×5という算数の問題は,答えがあることが分かっており,それが20であることは電卓を叩くなどして直ちに手に入れることができる。

次に,答えがあることが分かっているが,当分の間,答えを手に入れることができない問題である。最適化問題がこれである。関数の最小値を求めることは人生においては頻出する問題である。例えば,部屋の家具の配置である。ベッドや本棚の配置について答えはあるが,どう配置したら良いのかすぐには分からない。あるいは勤めている会社を辞めて他の会社に移る場合である。日本にある法人は高々有限なので,答えは必ずあるのだが,求めるのに途方もない時間がかかる。

続いて,答えがないことが分かっている問題である。これは実は,1つ目の「答えがあることが分かっており,ただちに答えを手に入れることができる問題」と等価である。例えば,2乗して-1になる正の整数は何か,という問題の答えは,ない(「答えがない」が答えであると言い換えたところで同じである)。答えがない問題は楽勝である。電卓を叩く必要すらない。答えがないのだから,何もしなくて良い。

最後が,答えがあるのかないのか分かっていない問題である。これが一番厄介な問題である。例えば,「人生はどう生きるべきか?」という問題はこれである。人生の答えを探している人がいるかもしれないが,先にあるのかないのかをはっきりさせなければ筋が悪い。答えは自分で作るものだと主張する向きもあるが,答えかどうかの検証ができないので答えを作ることはできない。

大学院の研究は4番目の「答えがあるのかないのか分かっていない問題」に分類されるが,研究者が答えがあると信じているという点で同分類の他問題と大きく性質が異なっている。

さて,明日の朝食を何にするか。これはどの種類の問題だろうか。一見,2番目のようであるが,実は,「答えがあるのかないのか分かっていない問題」である。なぜなら,この時刻に床に就けば,朝食があるかどうか怪しいからである。ちなみに,目覚めて「朝食がある」方に確定すると2番目の種類の問題を解かねばならないが,「朝食がない」方に確定すると圧倒的に解くのが簡単な1番目の問題になるので,敢えて夜ふかししているのは,いわゆる「ライフハック」である。